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ストリーミング配信の先駆者たち
〜インターネット個人放送局運営物語〜


第1回 Zei-FTTH映像OnLine


「自分のメディアを持ちたい」という欲求は、どの世代でも、いつの時代でもあるものだ。小学校時代の学級新聞をはじめ、ホームページを持つこともその1つだろう。一方、早くもストリーミングを使ったインターネット放送局を個人で運営している人も登場している。これらの個人放送局を運営している人たちは、どんな動機で、何を、どのように放送しているのだろうか?

文・藤井政登

光ファイバーを利用した自宅サーバーで運営

 第1回目として紹介するのは、伊藤信幸さん主催の「Zei-FTTH映像OnLine」
FTTHを導入した自宅サーバーで、自分で撮影したビデオ作品を700kの帯域のSIF(384×256ピクセル)で公開している。伊藤さんは、このページ以外にも、捨てネコの映像を記録した「我が輩は捨て猫である」(http://neko.zeicompany.co.jp/)を開設しており、俳優の黒沼弘己氏の公認サイト「黒沼劇場」http://kuro.zeicompany.co.jp/)も運営しているようだ。
 ホームページを拝見する限り、Zei-FTTH映像OnLineは、2001年5月から開設されている。光の導入は2001年12月7日からで、マンションにNTTのBフレッツの「ベーシック」サービスを引き込んでいるようだ。ホームページの「FTTH的導入祈」というコーナーに、NTTへの申し込みからマンション家主とのやり取り、実際の工事の写真などが掲載されていて面白い。工事状況は、写真だけでなく、ビデオでも納められているのは、さすがと言うべきだろうか。

淡々と流されていく作者目線のドキュメンタリ

 現在、定期的に更新されているコンテンツは、「映像コンテンツ篇」の「Tokyo23私観」というコーナーで、伊藤さんが歩き回って回って目にしたものを東京23区ごとにまとめた作品だ。原稿執筆時点で9つの区をテーマにした作品が公開されており、最新作は「中央区」篇。勝鬨橋や佃小橋などの端の風景や、月島の風景などがナレーションなしに淡々と流されてゆく。「大田区」篇は銭湯の煙突などを映し、「渋谷区」篇では日韓ワールドカップの「日本−チュニジア戦」後の渋谷の街の喧騒が映し出されているなど、異なるテーマで各区を撮影しているようだ。
 「映像コンテンツ篇」のほかのコンテンツとしては、人物や事象を3日間かけて撮影したものをまとめた「<3 Days>」と、戦争をテーマにした「ニッポン記念考」がある。「ニッポン記念考」は、“ニイタカヤマノボレ”という暗号が発信されたとされている千葉県船橋市行田の無線塔に始まり、投稿・墨田区の慰霊堂、広島の原爆ドーム、8月15日の靖国神社などの映像が収められており、こちらもナレーションなどなしに作者が見たものが淡々と綴られていく。ただし、各作品には日記が書かれているページへのリンクがあり、作者が撮影時に何を考えていたのかを知る手がかりとすることはできる。

撮影した日の夜にアップロードを行う

 このページの「INFO」を見ると、原則として撮影した当日の夜に編集し、翌日未明までにアップロードすることを目標に運営されているとのことだ。トリミングやオーバーラップなどの編集を行わず、音楽やナレーションなども挿入しないというポリシーがあるのだろう。撮ってきたビデオを2〜5分程度にまとめ上げ、すぐにアップロードすることで「インターネット上でしか成り立たない映像が生まれる」ことを期待しているようである。
 伊藤さんのプロフィールを覗いてみると、大阪芸術大学映像計画学科を卒業し、撮影助手や放送局のADなどを経てテレビ番組編集の会社を設立されている。言わば、映像のプロと言うべき人である。
 しかし、ホームページ上に掲載されているビデオ作品は、三脚もない手持ちのビデオカメラ撮影で、ほとんど手が入れられていない状態で公開されている。テレビ編集のプロが、なぜこのような手法で公開しているのかを中心に、伊藤さんにお伺いしてみた。

〜主催者に聞く、個人放送局運営の動機や手法〜


Zei-FTTH映像OnLineの環境と機材

 伊藤信幸さんの個人放送局は、開設当初はSDSLサービスで運営されていた。「住んでいるマンションが東京めたりっくのSDSLサービスの提供地域に入ったと同時に申し込みました」と語るように、もともとインターネットによる映像配信に興味を持っていた伊藤さんは「Biz1600」というサービスで上下1.6Mbpsの高速回線を手に入れる。しかし、当時の「Biz1600」は初期導入コストで10万円、月額費用は5万8,000円程度の回線維持費がかかっているはずである。現在は、Bフレッツの「ベーシック」とソニーの「bit-drive」の8個のIPで3万1,000円となっているようだが、個人で出す出費としては結構な高額である。この辺を伊藤さんに伺ったところ、「いや、独身なので…」というお答えだった。個人で手が届かない額ではないが、実測で上り40Mbps出ているという環境も含め、うらやましい限りだ。
 撮影用の機材は、基本的にソニー「DCR-PC100」1台のみ(写真1)。これに外部マイクを付け、120分のDVテープ数本とバッテリをかばんに入れて、歩きながら撮影を行うスタイルでビデオ作品を撮り続けている。外部マイクは指向性の強いものを使い、周囲全体の音を取ってしまったり、話しを聞いている自分の声が入ったりしないようにしている。一方、配信サーバーは、RedHat Linuxを搭載したタワー型のデル「Power Edge 1400」を使用(写真2)。編集用には、デル「Dimension 2200」(Windows XP Home Edition)にDVRaptorを搭載したものを使用し、外出先での編集が必要な場合はパナソニック「Let's note Pro R1」付属の「Motion DV Studio」を使っているという(図1)。

恣意的な演出のないビデオ作品を配信

 伊藤さんは、事前にインターネットなどで調べるが、ほとんど下調べなどを行わずに現場で考える撮影スタイルをとっている。三脚も広角レンズも使わず、Recボタンも押しっぱなしで撮影することが多いようだ。「Tokyo23私観」では、3時間程度の撮影を行って、現場から帰る途中に構成を考え、自宅で数分のムービーに短縮したらその日のうちにアップしてしまうという。なぜ、このような“ぶっきらぼう”とも言えるビデオ作品を配信することの意味を尋ねてみた。
「テレビの世界でのドキュメンタリでは、編集の方向が恣意的になりがちです。音楽やナレーション、編集効果によって、どうしてもドラマティックな方向に話を持っていくことになってしまう。Web上ではこういったドラマティックな要素がなくても載せられるのではないかと考えました」
 聞けば、伊藤さんは某放送局のドキュメンタリを仕事として手がけることが多いと言う。テレビ番組で放送されるドキュメンタリは、感動や視聴者に対する訴えがなければ成り立たない。しかし、個人で配信するインターネット放送局ではそのようなものを排除した目の前の現実を端的に伝えたものとしたい、と考えたのだろうか。「インターネットの配信を始めたことにある意味救われている部分はあります。仕事ばかりやっているのではなく、表現できる場が持てますから」と語るように、好きな映像の世界を仕事にしているからこそ、普段やっている仕事のような編集作業をなくした映像を配信したいということになっているようである。自分で考えたテーマを基に“映像日記”を撮影する、というのが伊藤さんのライフワークとなっているのだろう。
 実際、旅先などで撮影を行った場合は、Let's noteで編集して、Air H"を使ってアップロードしてしまうそうだ。「地方では、32kしか速度がなく、アップロードに4〜5時間かかってしまう」という。撮影してすぐに流すということをポリシーにしている伊藤さんだが、「朝起きてみたらエラーでやり直し」ということもあったようだ。


ビデオの長さは10分が限度

 しかし、自分で撮影した映像をアップロードするだけでは個人放送局としての意味を成さない。テレビに視聴率があるように、インターネット放送局でも視聴者がいるはずなのだ。視聴率を稼ぐための“仕掛け”をビデオに盛り込まなくでも、他人に見てもらうということを意識することは必要である。Zei-FTTH映像OnLineでは、「極私的日乗」と題された伊藤さんの日記が公開されている。これは、いわば撮影日記のようなもので、各ビデオ作品から該当する作品の撮影日記へのリンクが付けられている。視聴者は、これを見ながらビデオ作品の撮影時の状況や撮影意図を考えながらビデオを観ることができるのだ。“極私的”という言葉や、演出を廃して受け手側の視聴者に映像の意味を委ねるビデオ構成などが、伊藤さんの作風となっているような気がする。「ライブ放送をやる気はないのか」という問いに対しては、「やり方がよくわからないし、あまり考えたことはないですね。より伝わるものがあるのであれば、ライブでも構わないのですが」という言葉が返ってきた。
 伊藤さんにとって、そのような視聴者のサンプルとなるのが、中学時代の友人だという。サイト開設当初も、実家に帰省したついでにこの友人宅に行き、CATVで流された映像を確認して700kの解像度とすることを決めたそうだ。それ以来、この友人とはビデオ作品をアップロードするたびに意見を交換して、作品の評価を受けているという。これらのやり取りから、ビデオ作品は10分以内にする、ということも決められている。
「最初は、長い作品も作っていたのですが、10分以上の映像を見るのはしんどいという意見がありました。今は、ベストな長さは7〜8分と考えています。これ以上長い作品の場合は、二部や三部に分けるようにしました」
 Zei-FTTH映像OnLineのアクセス数は、1日に40〜50。gooブロードバンドのブロードバンドリンクに登録したが、あまり効果はないという。もちろん、伊藤さんにとっても多くの人に見てもらいたいという欲求はあるそうだ。しかし、ホームページのBBSには「レスを返すのが大変。それに見ている人は書き込んでくれません」と素っ気ない。このあたりも、伊藤さんのスタイルを表しているような気がする。

 伊藤さんが最も撮ってみたいビデオ作品は、「癌になるとしたら、死ぬまでその状況を撮影し、アップロードしていきたい」と笑いながら答えてくれた。このサイトの名前や会社名にも使われている「Zei」という言葉は、伊藤さんによると、古代ギリシャ語で「彼は生きている」という意味になるそうだ。癌で死んでいく自分を撮るのではなく、生きている証をアップロードし続けるという意味のようにも思える。「やめないことが大切」とも語る伊藤さんにとって、個人放送局はライフワークであり、自己表現の場であり、なくてはならないものとなっているのだろう。


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